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仙台高等裁判所 平成5年(ラ)138号 決定

抗告人

株式会社盤庄食品

右代表者代表取締役

五十嵐昌彦

抗告人

五十嵐昌彦

抗告人

五十嵐庄衛

右抗告人ら代理人弁護士

石澤茂夫

主文

原決定を取消す。

須藤繁雄に対する売却は許可しない。

理由

1  本件抗告の理由は、別紙「執行抗告状」写しのとおりである。

2  本件記録によれば、本件競売の経過は次のとおりと認められる。すなわち、別紙物件目録一一ないし一五記載の土地は、抗告人五十嵐昌彦が所有し、同目録一六記載の土地及び同目録一七の建物(以下、各土地を「本件土地」、建物を「本件建物」、土地と建物を併せて「本件不動産」という。)は、抗告人五十嵐庄衛が所有しているが、本件不動産を含む別紙物件目録一ないし一七の物件について、平成五年一月二六日、株式会社福島銀行を債権者、抗告人株式会社磐庄食品を債務者として、昭和五八年七月二九日設定の根抵当権等に基づき不動産競売開始決定がされた。平成五年二月二五日の評価命令を受けて同年五月一四日提出された同年五月六日付評価書に基づき、本件不動産は一括売却で最低売却価額を九一三万六〇〇〇円として、期間入札に付され、五十嵐庄一ほか三名から買受申込があり、同年八月六日、入札価額三五一〇万円の最高価買受申出をした五十嵐庄一に対し本件不動産につき、売却許可決定がされた。しかし、五十嵐庄一は代金納付期限である同年九月一六日午後二時までに残代金を納付しなかったので、原裁判所は同月一七日、本件不動産を従前と同じ売却条件で期間入札に付したところ、須藤繁雄ほか二名から買受申込があり、このうち最高価の一五〇三万円で買受申込をした須藤繁雄に対して、同年一一月五日売却を許可したことが認められる。

ところで、本件抗告理由の要点は、評価人が本件土地を評価するに際し、基準としたのは約一六キロメートルも離れ価格の低い土地であるから、この土地ではなしに近くの土地を基準とし、しかも本件土地の個別要因である分譲宅地化の可能性や幅員約一二メートルの県道に面している点を考慮して評価すれば、本件不動産の最低競売価額を二〇〇〇万円以上に決定すべきであるのに、九一三万六〇〇〇円としたのは、著しく不当で、重大な誤りがあるというのである。

そこで、検討するに、本件記録(評価人から平成六年一月七日提出された審尋書に対する意見書(回答書)を含む。)によれば、評価人は、本件土地の価額を評価するに際し、公示価格がないためにこれに代わる標準価格を参考として評価額を決定しており、具体的には対象物件と類似性の高い標準地等の価格から、地域要因等を比較する等して、対象物件の価格を推定する方法によったとしている。そして、評価人は、本件土地につき、その属する地域は、中規模の典型的な農家集落であり、その最有効利用も第一義的には農家住宅の敷地として使用することと判定されるとし、農家集落である猪苗代大字若宮高森甲二八六九番地(一平方メートル単価六五〇〇円)を基準として本件土地の価格を算定したとしている。

しかしながら、福島県平成四年度地価調査結果一覧表によれば、本件土地に場所的に最も近接した県の地価調査基準地は、本件土地から約一キロメートル北に位置する猪苗代町字不動五〇〇番二八(一平方メートル単価一万六七〇〇円)であって、評価人が基準とした猪苗代大字若宮高森甲二八六九番地は対象物件から北東に約一六キロメートルも離れており、一般的には類似性に乏しいと言わざるをえない。また、本件土地は県道猪苗代塩川線に面し、JR翁島駅の北西方約六〇〇メートルに位置していることや周辺に別荘地があることを考慮すると、農家住宅の敷地以外の住宅地等として利用することも十分考えられるものと思われる。

そうすると、本件土地の評価は妥当性を欠いており、したがってこれに基づいてなされた本件最低売却価額の決定には重大な誤りがあるというべきである。

よって、実際の競落価額が最低売却価額を約六〇〇万円上回ったことを考慮に入れても、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、須藤繁雄に対する売却は許可しないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官小林啓二 裁判官信濃孝一 裁判官小島浩)

別紙執行抗告状〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

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